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Author:カク
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無題2

いまだに冬の寒風がどこからか吹き、土の上の草木を冷たく凍えさせながら潜り抜けている春の深夜の丘陵では、暗闇が丘陵の背後の山林を無限に侵食し、月は空からスポットライトを当てるかのごとく丘陵だけを照らしていた
そこから見える彼方の街は、まるで灯台のように、何十もの光線を夜空に向けて放っている
 丘を風の音と、虫のさざめきが支配する中、遠方の街を悠然と見下ろす一体の人影があった
「・・・・・・ここか・・・・・・・」
 透き通ったソプラノの声だった。聞く者がいれば、不純物など一切混じっていない澄んだ純水を連想させる、そんな声だった
 美しい少女だった。長く艶やかな黒髪、造形の整った端整な顔立ち、淡雪のような白く決め細やかな柔肌。街を歩けば、人々は必ずハッとして振り駆るだろう
 だが、その振り返りは別の意味でも捉える事ができる。彼女は手に、誰の目から見ても明らかに不釣合いな、厚手のレザー・グローブを身につけていたからだ
 そのグローブは防寒用という意味で付けている訳ではない
 そして少女は腰に付けているカバンから、小さな、一つの羅針盤を取り出した。それは、羅針盤と言うには小さすぎるものだった
 少女はその小さな羅針盤を、体に垂直に押し出した手のひらの上に乗せた
 そのまま数秒が流れ、少女は羅針盤の中を覗き見る
「・・・・・・やはりこの街にいるのか」
 常人ならば羅針盤に示された謎の模様は到底理解できないが、少女は見た瞬時に模様から何事かを察した。少女の顔が暗くなる
 程なくして少女は歩き出し、懐から携帯電話を取り出して、どこかへ電話をかける。無機質な機械音が鳴り、電話はつながった
「もしもし、私だ・・・・・・よろこべ、貴様の予想は的中したぞ。嫌なことにな」
 電話の相手が、周囲の鳥にも聞こえる位の声量で何事かをがなりたてる
「分かっている! 抜かりは無い。もうすでに拠点も構えられてるし・・・・・・ああ、請求費は全額本部に付けておくからな」
 少女は続けて言う
「にしてももう少し人員配置はどうにかならなかったのか? いや、私に自信がないわけではない。 だが、私一人とは・・・・・・」
 少女は不安げな様子だった。それは、彼女は今回が初仕事ゆえの表れだ
「・・・・・・まぁ、そこは上の私に対する信頼と受け取っておこう。支援物資もよろしく頼むぞ。・・・・・・ああ、・・・・・・ああ、ではまたな・・・・・・はぁ」
 ため息と共に、少女は通話終了ボタンを押した。青く光る月光を、少女は仰ぎ見た
(・・・・・・これは私の初任務だ。ここまで来るのに何年かかっただろう。でも、この任務さえ成功させれば私もようやく『魔道師』として一人前だ)
(失敗は許されない。いや、それ以前に失敗は死につながるんだ・・・・・・)
 初任務とはいえ、少女に下された指令は重大なものだった。新人に任される仕事では本来無いのだが、人手が足りないのが組織の現状だ。愚痴は言ってられない
 そして彼女は、もう一つの不安要素を鑑みる
「高校、か」
 もうすでにこの街のとある高等学校に入学することが決まっていた。今までにも教育と呼ばれるものを受けた事はあるが、学校と言う場所での経験はなかった
 彼女にとっては集団生活など不要以外の何者でもないのだが、やはり街という空間で生活していくためには必要な事だと上が判断したらしい。彼女の世間体と言う事だ
 要約すると高校生の生活と魔道師としての任務を両立しろということになる。
 キツイ。それも特段に
「・・・・・・そろそろ戻るか。明日も早い」
 ネガティブな思考を打ち消して、少女は町の方へと再び歩き出した
 その足取りに、迷いはもう無い。自分に示された道筋を、これから歩き始める
「必ず探しだして、借りはきっちり返してもらう!」
森のフクロウがどこかから低い声で鳴いた後、バサバサ、という音を立てて荒く飛び立った。光る街は止まる事なく、時間が流れ人は動き続ける
四月の夜桜が舞う、夜のことだった


「・・・・・・」
まだ空の遥か東に太陽があり、同時に目覚め始めた小鳥たちが電線の上から、互いに会話するように囀り喚いている、春の早朝。人通りの少なかった街のいたる道に、ぽつ、ぽつと人の姿が見えるようになっていた。その人間の多くは、紺色のブレザーやセーラー服を身に纏う、学生である
この季節、この街、紹鴎町にはとある住宅街を抜けて少し歩いたところに、坂道沿いに続く桜並木がある。風光は美しく、花見に足を運ぶ地元民も数多く存在する
そしてまたその先に、この大半の通学者たちの目的地である高校、私立紹鴎高等学校が存在する。今日はその始業式だ
そんな思わず歩みを止めてしまうような桜並木で、二人の男女が隣り合って歩いている。男は目の下にくまを作っており、意識ここにあらずといった感じだ
空を飛び、朝を告げる小鳥たちの声が男の耳に入った時、女の方が男の顔を心配そうに見た
「どうしたの唯辻、元気ないじゃん」
 少女が少年に向かって呟いた。唯辻と呼ばれた少年、京極唯辻は薄らぼんやりとした頭で、大きなあくびをかいた
「あぁ・・・・・・眠くてな」
「寝不足かぁ。昨日もアレしてたの?」
「・・・・・・いかがわしい言い方をするな品川。そうだよ」
「懲りないねぇ~」
 あきれた様子で品川こと、品川鈴が言った。
「いや、開発は試作段階までには進んだんだが・・・・・・致命的な欠点が見つかってな」
「その台詞何回目よ・・・・・・」
「・・・・・・どこが悪かったんだ? いや、・・・・・・だから、いやしかし・・・・・・」
 ブツブツと自分の世界に入り始めた京極
「まったく、昨日も上村がぼやいてたよ? 最近京極の付き合いが悪いって」
「・・・・・・あいつの場合は一年中遊ぶ事しか考えていないだろう」
「まぁ・・・・・・それもそうだね」
 二人は坂道をのろのろと登っていく。そんな彼らを追い抜いて、他の生徒たちが学校へと向かっていく。通り過ぎていく生徒たちの、ほぼ全員の男子生徒たちが品川にいささかぎこちない様子で、
「お、おはよう、品川さん!」とあいさつしていく
 品川も微笑んであいさつを返すのだが、それと同時に、横を歩く京極に男たちの明らかな殺意の眼差しが突き刺さった
「なぁ、品川・・・・・・今更なんだが」
 前を進んでいく男たちの後姿を半ば引きつった顔で見やりながら、後ろからも突き刺さる何者かのどろどろとした念に、冷や汗を垂らす京極
「ん? 何?」
「入学して以来一年以上こうしてるのに今更なんだが・・・・・・もう二人で登校するのは止めないか?」
「へ? 何急に?」
 京極の内心を知ってかしらずか、品川は何気ない顔だ
「いやその・・・・・・痛いんだよ、その・・・・・・色々と」
「???」
「・・・・・・念が、さぁ」
 京極は改めて品川の容姿を見る
 健康的な、薄く焼けた小麦色の肌に、短めの髪は、下手に手を加えないショートカットでまとめられていて、彼女の小さな顔と大きな瞳がより引き立っている。
 体の線こそ細いが、それはスタイルが良いという意味でも受け取れる。
 簡単に言えば、可愛かった。それも抜群に
(・・・・・・通り過ぎていく奴らが感嘆のため息を漏らすのも分かる。国民的美少女コンテストに出場しても優勝しない・・・・・・とは言い切れないのがこいつの恐ろしいところだ)
「念???」
「いやその、誤解されるだろう・・・・・・色々と」
「誤解?」
「あー・・・・・・もういい」
「そう? ならいいけど・・・・・・」
 品川の頭の上に、クエスチョンマークが浮かんでいるのが京極には分かった。どうやら本当に意味が分からないらしい。自分の魅力に微塵も気付いていないらしい。そのせいでどれだけ被害を被ることか
 そんな会話の流れを無かった事にするために、京極は話題を変えることにした
「クラス分けはどうなってるかな」
「あー・・・・・・全部で1学年8クラスあるからねぇ、私と唯辻は一緒になれないかもねぇ」
「・・・・・・」
 やはりこの女は俺のことをからかっているんじゃないだろうか?
 ニヤニヤと笑う品川に、京極は思う
「でも私たち一緒のクラスなきがするなぁ。去年もそうだったし」
「藤のヤツも、そうなりそうな気がする」
「上村? あ、凄い分かる」
「だろう? 「また一緒だぜお前らー!」とか言うに決まってるんだ」
 二人は和やかに喋りながら、桜並木を進んでいく
 舞い散る桜の花びらをかわし、春風が吹いた頃、校舎が彼らの目の前に現れた
 すると品川が、思い出したふうに京極に告げる
「あ、そういえば知ってる? 編入生が来るって噂」
「編入生? 初耳だ」
 京極は素直に驚く
「私も友達から聞いたから、そんなハッキリとは分からないんだけど・・・・・・東京の方から来たんだって!」
「へぇ・・・・・・」
「女の子らしいんだけどね、何か相当の美人さんらしいよ!」
「美人、ねぇ」
 なるほど、こいつをも超える美人だとすれば、見てみたい気もするな
「あれれ~? アンタでも興味沸いてきた感じ?」
「フン・・・・・・言ってろ馬鹿」
「ちょ、ちょっと! 置いてかないでよ唯辻!」
 スタスタと校舎の玄関に向かう唯辻に、慌てて品川は駆け出していく
 そんな品川を尻目に京極は編入生の事に思いを馳せる
(編入生、か)
(別段興味があるわけじゃないが・・・・・・面白いな)
(・・・・・・関係ないが、昨日隣の部屋に誰かが越してきたらしい)
(二つあわせて良い事だ)
(俺の楽しい日常になるんなら・・・・・・それで)
 さて、新しいクラスはどうなっているだろうか
 京極は賑やかな生徒達の人ごみへと入っていった



 初々しい新入生を迎えた入学式が終わり、京極達は自分のクラスへと戻っていく
「な、長かったねぇ・・・・・・校長先生の話」
「そうだな・・・・・・いつもの事だとは思ってたが、入学式で張り切ってたのか、いつもの倍は長かったな・・・・・・」
「うん・・・・・・あ、えっと・・・・・・あそこだよね?」
 品川は2・Cの教室を指差した
 バキバキと、鈍った肩を鳴らす京極は力なく頷く
 そして教室へ入り所定の席へと座る京極に、元気よく突撃してくる一人の少年がいた
「また一緒だぜお前らー!」
「上村、おはよう! やっぱり言ったね!」
「? 何が?」
「三人一緒って事だよ! やった~」
「そうだな! やった~!」
 ハハハと笑って小躍りする上村と品川を呆れ返って眺める京極は、ボソッ、と二人に聞かれない位の小声で呟いた
「・・・・・・本当に同じになるとは思わなかった」
 まだどちらか1人と一緒になるならば分かるが、8クラスもあるというのに二年連続で三人一緒となると、流石に運命的だと京極は思う
(・・・・・・腐れ縁の方が正しいかな)
「何だってんだよ京極ちゃん! 顔が暗いぜ? もっと! 喜びを! 分かち合おうじゃないか!」
「・・・・・・いいかげんその変な呼称を変えろ、そして俺の視界から消えろ」
 少年は依然と高いテンションで京極に話しかける
 この妙なテンションの少年こそが上村藤だ
 茶色に薄く染めた髪に、両耳にあけたピアス、わざと着崩れさせた制服。少し悪ぶってるように見せているつもりらしいが、実際には周りには『ちょっと張り切りすぎちゃった子』として受け止められているのが現状だ
 そんな少年だが明るい性格とふざけた物言いで、意外と人望は高い
 京極とは一年前のこの紹鴎高校入学当初からの友人である
「ハイタッチしようぜ! ハイタッチ!」
「消えろ」
「酷い! 酷いぜ親友! でも俺は分かっている・・・・・・本当はお前は昇天しちゃうほどこの三位一体が嬉しいってことがな! このツンデレめ!」
「消えろ」
「あ、もしかして・・・・・・俺抜きのほうが良かったぁ?」
 意味深な笑みを浮かべ、こっそりと小さく言う上村
 その瞬間、京極の額に青筋が浮き出た
「・・・・・・よし、藤、表に出ろ。今すぐお前を昇天させてやる」
京極が勢いよく席を立ち、固めた拳を目の前の上村藤に向かって振りかぶった
「あ・・・・・・アカン! 警察沙汰はあきまへんで! 助けて鈴ちゃん!」
「唯辻・・・・・・謝りなさい!」
「何でだ! 理不尽すぎるだろう!」
「グスッ、グスッ・・・・・・ブクククク」
「ほら~上村泣いちゃった」
「笑ってるじゃないか! 思いっきり!」
「「あーやまれ! あーやまれ!」」
「ハモるな!・・・・・・クソッ」
(こいつらは俺をどうしたいんだ!)
京極は舌打ちした
だが、不思議と悪い気はしなかった。久しぶりに友達に会ったからか、いや、それは違う。京極はこの二人といると、何故だか心が落ち着くのだ。
「あっれぇ~? 京極ちゃんのお顔が綻んでますよぉ~?」
「あ、ホントだ! 唯辻笑ってる!」
「ん、んなっ!」
京極は、自分自身知らず知らずのうちに上がっていた口角を、驚いて手で押さえた
「はっはっは、京極ちゃんは本当にツンデレだなぁ」
「ふ、藤ィィィ!!!」
「ギャアアア殺されるぅぅぅ!!!」
 教室内を上村の悲鳴が木霊する。京極は上村を締め上げる。品川はそんな二人を笑って眺めている
 これが京極唯辻の『日常』だった

 そのとき、不意に教室の扉が開いた。そこにいたのは、新しく京極たちのクラスの担任になった女教師だ
「ハイお前ら席に着けー」
白衣を纏った教師は、その言葉とともに教団へとツカツカと歩み寄る
騒がしかった教室も、教師が教卓に立つ頃にはすっかり静かになり、全員が各々の席に座っていた
「私が、今回お前らの担任になった志麻だ。志麻おねーさんと呼んでも構わないぞー」
 二十台後半らしき女の発言ではない。
そして教師が手に持つファイルの中を確認した
「・・・・・・あー、どうやら欠席者はいないようだな、うん、まぁ始業式じゃ当然か」
教師が誰ともなく言う
だが京極は違和感を覚えた。さっきまでは気付かなかったが、自分の隣の席が空いているのだ。ぽっかりと一人分
それに気付いたのは京極だけでは無かったらしく、京極の前の席の女生徒がその席を指差して、志麻に質問を投げかけた
「あ、あのー・・・・・・ここの席が空いてるんですけどー・・・・・・」
「うん? ああ、そうだそうだ、伝え忘れてたな」
「?」
 くだけた志麻の態度が突然改まった
「お前らの中の何人かは知ってると思うが・・・・・・お前らの学年に編入生が来る事になって、このクラスに配置された!」
「おおおおお!!」
窓側の席の上村が歓喜の声を上げた。それと時を同じくして、クラスの男子生徒が一斉にどよめき立つ。口笛を吹くものもいれば、上村のように叫ぶものもいる有様だった
「「「うおおおおお!!!」」」
「な、何なんだ? この俺だけ取り残されているアウェイ感は!?」
そんな一人ポツンとしている京極を見かねたのか、先ほど志麻に質問した前の席の女生徒が、おどおどとしつつも声をかけた
「そ、それはアレだよ京極くん・・・・・・」
「ああ、えっと・・・・・・初宮さんだっけ? 何でなんだ?」
初宮の表情がショックを受けた感じになったが、京極は気付かず言う
「そ、それは・・・・・・転校生さんが、美人さんっていう噂だから・・・・・・」
「・・・・・・道理で」
そう、京極がどよめきたつクラスを見渡したときに同時に感じた、女性陣のゴミを見るかのような白い目は錯覚ではなかったのだ
「「「うおおおお!!!」」」
(それを差し引いても、ずいぶんとおかしなクラスに入ったものだ)
 男たちの魂の叫びはとどまるところを知らない。事態に収拾がつかなくなりかけたとき、志麻が一喝した
「静かに!」
 志麻が裁判官のように教卓を叩く。男たちの魂の叫びは鎮火された
「んじゃあ、そろそろ入ってきてもらおうか・・・・・・おーい」
 志麻が呼ぶと、ガラガラ、と扉を開いた音が教室に響いた
 その話題の編入生が姿を表す
(・・・・・・おいおい、どういう事だ? 話が違う)
 シバは編入生を一見して、冷や汗を垂らしながら思う
 教室の生徒達も、ましてや見たことがあるはずの志麻さえ同様だった。皆彼女を視界に捉えると、まるで時が止まったように声も発せず、動かず、硬直していた。そのとき、本当の静寂が教室を支配していた
 京極は、思わず息を呑んだ
(『超絶』美人じゃないか・・・・・・!)
 編入生は時が凍った世界を、無言で教壇まで進んでいく。その姿は、さながらこの時間の支配者のようだ
 人は自分の知らない未知の芸術に触れたとき、言葉が出ず、言い知れぬ感動だけが心をいっぱいにするのだという。今の教室の生徒達は、それだった
 彼女の『美』が、生徒達を虜にしているのだ
 だが、京極は少し呆れた。クラスメイトにである
(・・・・・・いや、いくら可愛くても皆驚きすぎじゃないか? ノリとかも関係してるのかな)
 生徒達はピクリとも動かない。訓練され、統率が完璧な兵士のように
 比較的こういう事には不慣れそうな初宮さえもだ
「・・・・・・おい、貴様」
 突如、凍った時の世界に、透き通った高い声が響いた
 その声の発生源を見ると、編入生だ
 彼女は細く白い指を、京極がいる方向へ向ける
(・・・・・・なんだ?)
 京極は誰のことかと、彼女が指差した後ろを振り返った
「違う! 貴様だ!」
 編入生の怒声が耳を劈く
再び編入生を見ると、またしても京極のいる方向に指先を向けている
京極は近くの席の誰かかとあたりを見渡した
「・・・・・・貴様」
 いつの間にか編入生は京極の横まで近づいていた。顔を真っ赤にさせて、京極をにらみつけている
 京極はそこで、ようやく気が付いた
「あのー・・・・・・もしかして、もしかしなくても・・・・・・」
「貴様だ! さっきからきょろきょろしているお前だ阿呆!」
 顔に見合わぬ言葉遣いでさきほどから京極を怒鳴る編入生
 流石の京極も、理不尽に怒ってくる編入生にカチンと来る
「・・・・・・ッ! 俺が何したっていうんだお前!」
「決まっているだろう!」
 編入生は即座に答える
「なんで貴様だけ動いているのだ!」
「・・・・・・何だと?」
 京極は唖然とした。彼女の言葉に
「・・・・・・ま、まさかお前は「自分の美貌を見て何でもっと感動しないのよ!」とか言うタイプなのか」
「違うわ! 阿呆が!」
 バシィ、と音を立てて京極の頭が叩かれた
「い、痛っ!」
「そのままの意味で言っているのだ! 貴様、まさか逃走者か!」
「は、はぁ!?」
「・・・・・・しらばっくれおって!」
 京極は彼女の言っていることがまったく理解できなかった
 目の前の不可解に頭を悩ませる暇も無く、そのうち、一つの違和感が京極を包み込んだ
(な、んだ? ・・・・・・この感じ)
 そして京極の違和感は確信へと変わる
 その違和感の正体は、クラス
(俺たちが、さっきから大声で怒鳴りあってるのに・・・・・・さすがに、こいつらもふざけているとはいえ、反応しないほうがおかしくないか?・・・・・・大体皆、ふざけが異様なほど長い)
 戸惑う京極に、編入生の少女は、信じられないといった風に、京極を見つめた
「理解してきたか、馬鹿者」
 京極はクラスのこの悪ふざけの様子を、まるで時が止まっているようだと表現した
 それは大きな間違いであり、そして正解でもあった
 京極は、俄かには信じられないといった具合で、一つの推論にたどり着いた
「そんな、あり得ない・・・・・・こんな事が、あるはずが」
「でも貴様は現にこうして、その『ありえない』に直面している」
 ようやく京極は驚き、瞠目し、背中から冷や汗を流す
 そして少女を横目で見て言った
「まさか―――時が止まっているのか?」
「・・・・・・はぁー、そんな対応の者が逃走者なわけがないであろうな、そう、正解だよ。私が止めたのだ」
 少女は軽く言うが、言っている事はとんでもないことだ
「な・・・・・・! 世界の時を止めるって」
「救いようのない阿呆だな貴様。誰が世界中の時を止めたといった・・・・・・ここだけ、この学校全体だけの時を止めた」
「・・・・・・! そんな、馬鹿な」
 京極は床にへたりこんだ
この少女は、当然のように時を止めただのと言っているが、スケールがでかすぎて上手く想像できない
これは夢かと自分のほっぺたを強く抓った時、京極は気付いた
「・・・・・・あ、そういえば俺は動いているぞ?」
「だから最初に聞いたであろうが! 何で貴様は、私が時を止めたというのに動けるのだ!」
 京極は少女の剣幕に、思わず気おされる
だがそんな風に戸惑い続ける暇は、京極の視界に上村や品川の、動かずに固まったままの姿が入った事で無くなった
「おい編入生」
 京極は立ちあがって少女に向き直る
「・・・・・・どうしたのだ」
「一つ、聞いておきたい」
「?」
「俺の友達が今固まっているが、それは戻せるんだろうな」 
 彼女が何を考えて時を止めたのかは京極は知らない
 しかし、そのせいで品川たちが現在被害を被っているのに、あまつさえこのまま一生動けないなんて事になっていいはずはない
 京極は少女を睨む。すると少女は肩を竦めて、制服のスカートのポケットから四角く、黒い立方体の箱を取り出した
「安心するのだ。ちなみにこの黒箱の力で時を止めるのだが―――スイッチにオンオフがあるように、この箱にも切り替えの機能はあるから。・・・・・・というか時は無制限に止められるものではないのだ。今の状態だと、体感時間で後五分ほどでもどる」
「・・・・・・そうか」
 京極は、ホッと胸を撫で下ろした
「ならもう戻してくれないか、編入生」
「・・・・・・何でだい? まだ君が魔道師である可能性が残っているんだが」
「魔道師だかなんかは知らないが・・・・・・周り、見ろよ」
「?」
「今はホームルーム中だぜ? 固まってるが・・・・・・しかもお前の自己紹介が始まる、な」
「・・・・・・フン、まぁいいだろう」
 少女は言いつつ歩いて、教室の、彼女が入る直前だった扉へ戻った
 京極は分からないことに頭を悩ませることを一時止め、とりあえず、黒箱を手にしてどこかを押しかける編入生に、遅れた挨拶を投げかけた
「なぁ編入生、名前、聞いてなかったな」
「・・・・・・人に名を問う時は、自分から名乗るのが礼儀じゃないかね?」
「あぁそうだな・・・・・・俺の名前は京極唯辻、お前は?」
「・・・・・・ふん、ま、いいだろう」
 綺麗な少女は端整な顔を不機嫌そうにしながらも、とりあえず、といった様子で京極に返事を返した。少し遅れた自己紹介だ
「獅子堂 灰音だ・・・・・・よろしく」
 彼女は顔を少し赤らめて言った。手に持つ黒箱を操作し、京極にシャボン玉が割れるような感覚がした後、時が再び流れ始めた。教室の静寂が壊され、活気が蘇っていく
 そして彼女は生徒達の前へと出て行った


 q
「―――で、話があるのはお互い同じなんだがなー・・・・・・」
「どうしたのだ?」
「いや、もう少し時と発言の場所を選べなかったんかとね」
「発言も何も・・・・・・「放課後用がある」と言っただけではないか、教室で」
「そこが問題なんだなぁ・・・・・・まぁ、いいが」
 入学式もとっくに終わった放課後の真昼間、京極はすたすたと先行する、獅子堂 灰音に愚痴を零しながらも付いていっている
 京極が不満を漏らしていた理由は、約一時間前の教室の出来事まで遡る

「いんやーーー、幸福ですなぁー! 京極殿!」
「・・・・・・何がだ藤間」
ホームルームも終わり、皆が帰り支度をしている真っ只中で、上村は喜々としながら京極に話しかけてくる
その目線の先は、現在も無数の男子生徒から囲まれている獅子堂だ
「何がって! あ~んな麗しい美女とクラスが同じになったことっさぁ~!」
「そんなに気に入ったのならあいつらに混ざって来たらどうだ?」
「・・・・・・いやぁ~それは、・・・・・・もう試みた」
「・・・・・・」
 獅子堂は言い寄ってくる男たちをまるで存在しない空気のように扱っている。それにすがり付いてめげずに話題を次々と持ち出す男たちを見ていると、どうでもいいはずの京極にも何か心に来るものがある
「・・・・・・クールだな」
 京極が特に考えもせず、思ったままに呟いた
「いやぁ・・・・・・氷なんじゃないでしょうか」
 上村が目尻に涙を溜めて、口からボソッと漏らした
「・・・・・・でもめげない、くじけない、諦めないが俺のポリシーさ! むしろこれで俺の好感度が上がったとも言えるねぇ!」
「・・・・・・いやぁ、止めといた方がいいと思うがなぁ・・・・・・初対面の人間を怒鳴るような女だし」
「ん? 何か言ったか?」
「・・・・・・何でもない」
 程なく京極たちはなんのとりとめも無い雑談へと話が切り替わる。上村の頭には編入生のことはすでに無かった
 だがそんな中でも京極は、獅子堂から決して目を離さない
(・・・・・・魔道師だか魔法使いだが知らんが、また時を止めたりしないだろうな・・・・・・?)
 獅子堂は今は例の黒箱を手にしていないが、瞬きした瞬間に時を止めて、あのイナゴのような男たちを殴り飛ばすとも限らない
(さっきの俺がどうかしてたんだ! よく分からない時を止めれる女と普通に話してたなんて・・・・・・)
 それでも色々と不安なので獅子堂にぶつかって聞いて見ようかとも思った京極
 すると目を向けていた場所から、ガタッと音がした。獅子堂が椅子から立ち上がった音だった。驚いたのは男たちや京極たち二人だけではなく、クラス全員がそこに注目した
「お、獅子堂ちゃんが遂に怒って帰るのか」
「・・・・・・いや、何か様子が変だぞ?」
 彼女は、口々に「待ってよ!」だの「俺たちと放課後カラオケに・・・・・・って、あ!」だのと叫ぶ男たちを目で殺し、ドスドスと足音を立ててこちらへ向かってくる
「あれ? なぁ京極ちゃん、あの娘こっち来てない?」
「気のせいじゃないと思うぞ・・・・・・」
「しかも凄い睨んでるな? しかもその対象は京極ちゃんな気もするな?」
「多分そうだ・・・・・」
「え? え? 京極ちゃん、いったい何を―――」
「おい貴様!」
 上村が言い終わる前に、獅子堂が会話を遮って現れた。彼女の顔は、京極のほぼ眼前に近づいていた。京極の視線は、彼女の鋭く澄んだ瞳に吸い込まれる
「・・・・・・あのな、さっきもそうだがお前一々顔ちか―――」
「放課後伝えたい事がある! さっさと来い!」
 獅子堂が何の臆面も無く言う。その声は、教室の至る所―――具体的に言えば横にいる上村から教室の奥で談笑をしている品川まで―――轟いた
 そして獅子堂は細く白い手で京極の腕を掴み、すたすたと無理やりに引きずって歩いていく
「ちょ、おい待て獅子堂!」
 彼女よりも大きいはずの京極がいくら振りほどこうとしても、効果はない。必死の抵抗も空しく、京極は引きづられていく。
 上村は一瞬、止めようかとも思ったがピーンと何かを閃いた顔をして、笑って放っておく
 彼の次の行動は、ひきずられる京極に手を振ることだった
「京極ちゃん・・・・・・! まぁ、がんばれ!」
「違う上村! お前は何か勘違いをしている!」
 京極はクラス中の視線(主に男の)を浴びて教室の外へと連れ出されていく
 その自分を見る顔たちの中に、男たちのではなく、他に何かじっとりとした目で見ている者がいるような気がしたが、それはまた別の話だ



(―――あの眼差しは誰のものだったんだ? やけにじっとりというか・・・・・・)
「おい貴様・・・・・・何を考えている?」
 不意に彼女が京極に言った
「あ・・・・・・いや、なんでもない」
「・・・・・・そうか」
 そこで京極たちの会話は途切れた。にぎやかな街を歩き続けるが、二人の間の空気は重い。気まずいせいか思いついたように、獅子堂が京極に話しかけた
「そういえばまだ名前を聞いていなかったな」
 貴様貴様と呼ばれすぎたのか、呼称に慣れてしまっていた自分に京極は気付く
「ああ、そうだった。俺は京極唯辻、京極でいい」
「では京極、一つ聞いてくれるか」
「何だ、どうした?」
 獅子堂は突如立ち止まった。そして横の京極を振り返ると、毅然とした態度で言い放った
「私たちはどこへ向かっているのだ?」
「・・・・・・はぁ?」
 一拍の間が空いて、京極は答えた
「お前が俺を引っ張って、ここまで来たんだろう。俺は行き先は知らないぞ」
「う、ううむ・・・・・・それはそうなのだが・・・・・・なにぶん、この街には先日来たばかりなのだ・・・・・・」
「・・・・・・それならそうと、早く言え」
 獅子堂は困ったように京極の前を右往左往する。排気ガスを出し、すぐ横の道路を通過していく車を感じながら、仕方なく京極は道の少し先にある看板、『喫茶店・アールグレイ』を指差した
「話があるというなら、あんな所でもいいだろう」
「・・・・・・及第点だな」
「贅沢だなぁ」
「私はもっとこう、廃墟的なところが好みなのだ」
「無いよそんな所・・・・・・。どうせなら、またあの例の黒箱で時間止めてればいいじゃないか」
「阿呆、落ち着ける場所がいいのだ。それに・・・・・・あの黒箱はそう多用できん」
「何で?」
「それも説明するが、まずは中へ入ろう」
 スタスタと道を進んで喫茶店の前に来ると、京極たちは店内へ足を踏み入れる。扉の上からキンキンという鈴の音が鳴ると、店の奥から「いらっしゃーい」と声が飛んできた。
「ほう、昔懐かしい雰囲気だな。洒落ている」
 獅子堂が呟いた。京極も店の中を見ると、確かにレトロという言葉が相応しい、趣のある内装だった。
 立ち尽くしていると、店員とおぼしき若い女が近寄ってくる
「いらっしゃい! 二名様でいい?」
京極は頷いた
 店員の女は何故かニヤニヤと笑みを浮かべている
「いいね~、お二人で。青春だね~」
「「・・・・・・」」
「こちらへどーぞ~」 
 顔面を高潮させる二人に構い無く、店員が二人を席へと誘導する。だが京極と獅子堂の間の空気は、依然とまして重く、少し妙な色が入っていた。
 そして外の通りが見える壁際に案内され、二人は腰を下ろした。ほどなく丸テーブルに置かれた水を飲み干し、落ち着いた
「ふぅ・・・・・・おい獅子堂、とりあえず何か頼むぞ」
「うむ、適当な飲み物でよい」
「分かった。あのー、すいませーん」
 呼び声を聞き、すぐさまあの店員が駆けつける
「はい、ご注文は?」
「えっと、じゃあブラックコーヒー二つ」
 手元のメモに注文を書き取って、店員は厨房へと去っていく
 彼女の後姿を横目で見やった後、獅子堂は重たい口を開いた
「・・・・・・何から話すものかな」
「そうだな、なら俺から質問していいか」
 京極の瞳と少女のそれが、向かい合った
「獅子堂、お前は何だ?」
「・・・・・・」
「注文の話じゃないぞ。言っておくが」
 少女は沈黙する。重苦しかった外での空気が再開した。だが、それはそれほど長くは無かった
少女は顎に手をやり、なにやらしばらく考え込んでいたが、不意に京極に言った
「そうだな・・・・・・京極。私はお前との出会いがしらに黒箱をみせただろう? アレでは何ができる?」
「その・・・・・・時を止めるんだろう」
「では京極。信じられないとは思うが、私の話を落ち着いて聞いてくれ」
「貴様は魔法というものを知っているか?」
 少女は間を空けて言った
「誰だって知っているさ。童話のほうきで空を飛んだり、炎を出したりするアレだろう?」
「・・・・・・まぁ出来ないことも無いがな、その通りだ」
「・・・・・・まさか、お前がその魔法を操る魔法使いだとでもいうつもりか?」
 思わず京極はぽかん、と丸く口を開けた
「察しがいいのだな、そうだ」
 馬鹿を言えと、京極は心の中で毒づく。そんなメルヘンな御伽噺めいたことが、この現実世界で起こってたまるか、と
 だが、それはいつもならの話だ。あんな日常から乖離したものを見せられた後と、では話が百八十度違う
「はは・・・・・・こんなん見せられた後じゃ、信じるしかないよなぁ」
 京極は首を縦に力なく振る
 実際京極は未だに信じられない。目の前で時が止まった事がだ。足元には、ふわふわとした浮遊感さえ残っているほどだ
 そして今、自分は魔法使いだと少女が名乗った。黒箱が証明として突き出された
 信じる以外に道はない
「・・・・・・京極、一つ一つ説明していこうと思うのだが」
「奇遇だな、俺も色々と聞きたい事がある。お前からでいいが」
「わかった。・・・・・・では、まず何から話そうか・・・・・・」
 しばらくの間少女が考えをまとめ、そして口を開き始めた
「京極、今この学校の時間を止めているのは、球の形をした結界なのだ」
「結界?」
「うむ。さっき見せたこの黒箱は魔力と、とあるパウダーを燃料として作動する。時間を止めるときは黒箱のここを押す」
 編入生は立体の箱の一面にある、円形の透明のガラスのようなものを指差す
「ここがボタンだ。時間が止まる結界は、黒箱を中心として広がっていく。ちょうど風船が膨らむような感じだの。 そして結界の大きさはこのボタンを押す長さに比例して大きくなっていくのだ」
「待てよ、その論理なら結界は無限に膨らませられるじゃないか」
「いや、それは無理だ・・・・・・たしかに結界はいくらでも大きくできるが、その大きさに反比例して、時間を止められる長さが減ってしまうのだ。この学校の校舎全体でほんの数分だけ、ましてやこの街全体を囲もうとしたら止められる時間は私では0に等しい」
「・・・・・・無敵なようで、そうでもないのか」
「何でもそう上手くは出来ていないよ」
 しんみりと編入生が言う
「そして本題なのだが、この結界で止められないものがある。私のような魔法使いの、魔力と呼ばれる力を持った人間たちだ」
「ちょっと待て、お前以外にも魔法使いはいるのか?」
「・・・・・・その話はまた後に置いておくぞ京極。 話を戻す。結界は魔力で構成されたものだから、同じように魔力を持っているとそれは耐性になる。だから私は時を止めている今でも動けるのだ。ここまでは分かるな?」
 京極は頷く
「・・・・・・そうだというのに何故貴様は動けるのだ・・・・・・」
「ま、待て。魔力というのを俺も持ってるんじゃないのか?」
「・・・・・・すまん、まだその説明をしていなかったな」
 少女は再び語り始めた
「確かに貴様が魔力を持っているとすると結界で動ける説明はつく。だが魔力持ちの人間というのにもその力の強さに大小があって、あまりに弱すぎると結界内での行動も制限されるのだ。だが京極、貴様はそんな様子は見られないし、魔力があるとすれば相当に強いのだろうがな・・・・・・あまりに強すぎる魔力というのは少なからず、身体に影響を及ぼすのだ。・・・・・・私たち魔法使いは皆そうだ。私も例外ではない」
 少女は額の髪を捲くった。京極がそこに目をやると、小さい突起物が生えていた
「個人によって現れる場所は違うが、大概の者は皆額か手、少数派では足の甲にこれに準ずるものが浮き出る。ちなみに、私達はこれを魔痕と呼んでおる」
「・・・・・・俺にはそんなものはない」
「だろうな、それが謎なのだ。見る限り貴様には魔痕はないようなのに・・・・・・」
 それは京極にもまったく分からない
 自分の体のどこかに角などは無いし、魔力を持っているという心当たりなどあるはずもない
 強いて言えば一つだけ、もしやと思うものがあったが、今は口には出さなかった
 京極たちは沈黙する。そのまま少し時間が経った
「・・・・・・さて、貴様も何か疑問があるそうだな?」
 彼女は言う
「ああ・・・・・・根本的に、お前は魔道師だと言ったが、何の目的でこの学校に―――」
 それ以上京極の言葉が続く事はなかった。突如、無機質な機械音が質問を遮ったからだ。慌てて向かいに座る獅子堂がカバンから携帯電話を取り出した。そこでようやく、京極は機械音が携帯の着信音だと気付いた
 獅子堂は席を立つ
「電話だ。・・・・・・悪いが少し席を外す」
「焦らないでいいから行って来い」
 そう言った後獅子堂が化粧室へと向かった。一人になった京極が手元の冷水に手をつけようとした時、ちょうど店員が注文のホットコーヒーを運んできた。
 ゆったりと湯気をたてるコーヒーを啜り、窓の外の空を眺める。
 午前11時半 いつしか黒い雲が青空を覆っている。曇天だった
 カップのコーヒーが半分をきった頃、程よくクーラーが利いた店内だというのに、汗を垂らした獅子堂がせきを切ったように戻ってくる
「京極!」
 京極は彼女の顔を見る。蒼白だった
「すまない、急用が入ってしまったのだ。本当に悪いが、今日はもう行かなければならない」
「・・・・・・どうしたんだ? 一体何があった?」
 目の前の獅子堂は目に見えて動転している
「それを説明する時間も無い・・・・・・すまん!」
「ちょっ・・・・・・おい!」
 椅子の足元にあったカバンを乱暴に掴んで、獅子堂は始めに入ってきた店のドアへと駆ける。京極は状況が飲み込めず、とりあえず獅子堂を引きとめようとして彼女の袖を掴んだ。
 そのせいだろうか。彼女は引止めに来る京極に目もくれず、その腕を振り払ったが、掴んでいた京極の力が思いのほか強く、バランスを崩して転倒した
 店の中に獅子堂のカバンの中身が散乱する
「あっ・・・・・・わ、悪い。大丈夫か」
「・・・・・・いや、別状は無い」
 別段彼女の体に、見られる怪我は無かった。京極は安堵したが、まず散乱した荷物を拾い集めるのが先決だ。
 店の店員も出てきて手伝い、獅子堂の手荷物はものの数十秒で全て集まった
「手間をかけさせてすまなかったな、京極。・・・・・・ではまた」
 そういい残して獅子堂はさっさと店の扉をくぐる。また、ベルの音が鳴った
「あ・・・・・・」
 京極が謝る暇も無く、獅子堂は去っていった
 そのまま立ち尽くしていると、あの店員が近寄り、京極の肩をポン、と叩いて言った
「少年・・・・・・どんまい!」
「う、うるさい! 振られたわけじゃない!」
「まぁまぁ、失恋記念にお姉さんが何か作ってあげよう。何がいい?」
「だから振られてないって言ってるだろう!」
じゃあオムライスね、と言って馴れ馴れしい店員は厨房に行った。京極はこんがらがってパンク寸前の頭を落ち着かせるために、自分の座っていた椅子へと戻った
机の上の、獅子堂の一口も飲んでいない、とっくに冷めたコーヒーがいやに目に付いた
「何だってんだ・・・・・・」
 自分のコーヒーを勢いよく飲み干し、獅子堂のカップへと手を伸ばすために、京極は席から少し腰を浮かせた。その時だった
 獅子堂の荷物が散乱したあのときだろうか。先ほどまでは無かったはずなのに、プラスチックでできている、黒光りした光沢を放つモデルガンが机の横に落ちていた
「・・・・・・?」
 京極はそれを手に取る。リボルバーの古い型式の銃だ
 艶やかな光沢はプラスチックめいたものだが、指で叩いてみると、プラスチックらしからぬ重厚感と重みが反響する
 だが不思議だったのが、この銃のリボルバーには銃弾を込めるための穴が無い。一つの丸い鉄板のようになっている。よく見ると、そのリボルバーには穴の代わりに等間隔で、1から6までの数字が刻まれてある
(・・・・・・これもあいつの道具か何かだろうか。捨てるのは考えられないし、・・・・・・預かっておいてやるか)
京極はその不思議な拳銃を懐にしまう
数分経ち、運ばれてきたオムライスに舌鼓を打った後、京極は会計を済ませてそそくさと店を出た。ベルが鳴って、同時に大きめの雨粒が京極に当たる。外はすっかり雨になっていた。折りたたみの傘を持ってきてよかったと京極は思った
「・・・・・・あいつ、傘持ってたのかな」
 ポツリ、と京極が漏らした。
(・・・・・・よし、この銃は明日獅子堂に返そう。その時に魔法やらの事もたっぷり聞いてやろう。この雨だ、風邪を引いてなければ良いんだが)
 そんな事を考えながら京極は家路につく。徐々に強くなってくる雨風を凌ぎながら、比較的新しいスニーカーを汚さないように歩いた
 だが、それからもう獅子堂を見なくなるとは、この時の京極には知る由も無い
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生存報告(必死)

私のブログを読んでくださっている、数少ない方々



せーぞんほーこくです!



いやー、ここ最近はホント忙しかったんですよ! 軽く死ねましたね!イヤホント



その代わりと言っては何ですが、私



―――猫を飼うことになりました!



いやー、愛くるしいのなんのって、ロシアンブルーと言う猫なんですがねー



これからはブログのタイトルを『カクとロシアンブルーの同棲日記』にしたいぐらいですよ!



―――冗談ですからね? ブログに駄文を書き綴る事は続けますからね?



そして、これからは大体月1~2ペースで更新しようかと思います


読者の方々、これからも引き続き、時間があれば駄文を読んでください!


最高の励みになりますので! ではまた

試し書き

「だからさ、俺はあの時ほんとに会ったんだよ! 天使に!」
テレビのニュースキャスターが、今日はここ数年最高気温の『超』猛暑日だと言っていたことを身をもって体感しながら、俺は親友といってもやぶさかではないクラスメート、コノ平に向かって証言する
「―――そう、あれは俺が―――」
「だァー! これから何回目の回想に入る気だよショウジ! ただでさえあっついのに、余計に脳味噌とろけそうになるわっ!」
目に見えて苛立つコノ平は、回想を遮るように乱暴にうちわで俺をあおぐ
「つーかあの時に天使に会ったぁ? ったく毎年毎年この時期になると・・・・・・。どうしても会ったって言い張るんなら証拠を見せろ、証拠を」
「・・・・・・」
 そういわれては閉口するしかなかった。実際、俺自身会ったといっても一瞬のような出来事だった
 耳を劈くような蝉の鳴き声が、俺の思考に木霊する。・・・・・・今でも覚えているのだ。同じような、蝉の鳴き声が確かにあったのを覚えているのだ
 ・・・・・・微かに触れた天使の声と一緒に
「天使、ねぇ」
 窓の外を見やりながら、誰ともなくコノ平は呟く
「・・・・・・ショウジ、お前もよ、もし仮に本当に会ってたんだとしても・・・・・・もう忘れた方がいいぜ」
「あいつらはあの夏の日のことは・・・・・・忘れてるだろ」
 廊下を照りつける初夏の日の光に背を向けて、全てうやむやにするかのように、コノ平は足早に去っていった
 俺は足元の日向を、俯き加減に眺めながら
「・・・・・・本当に、会ったんだ」
呻く様に、漏らした

今になって思い返すと、あの夢のような一瞬の出来事は白昼夢だった気がせんでもない
「えー、今年の夏は大変暑いので、部活中の水分補給も怠らず―――」
 思い込みの激しい子供の頃だとよくありそうだし、思い出補正、などということも考えられる
「勉学も真面目に取り組み、受験生の諸君は特に―――」
 ・・・・・・だが、どうして忘れられよう? 理屈では説明がつかないだろう
「夏休みだからといって、私生活を乱してはなりません。私の少年時代の頃は―――」
 あいつらを助けたのは俺でも、他の誰でもない。確かにあのとき差し伸べられた手は
「かぁー! 校長の長話もついに戦時中に突入だよ! まいったね!」
隣の女子生徒が大きく不満の声を上げる。近くの生徒たちはこらえきれなかったのだろう、クスクスと小さく笑いの声が広がった
「誰かと思えば・・・・・・アオイか。というか、年齢的にあの校長は戦後生まれだぞ」
「だってー、あの校長話長いじゃん」
 ふざけるアオイに、話が長い校長の憎そうな鋭い眼差しが向けられる、が
「はっ! 申し訳ありません軍曹殿! あまりにお話が長いために思わず全校生徒の本音が出てしまいました! かれこれ軍曹殿は30分以上話しているのでありますから!」
・・・・・・ぶれない女だ、まったく。俺は眉間を押さえながら、内心あきれを通り越して感心さえ覚えたものだった


「ちぇー、後で職員室に呼び出しとか、ついてないなまったく!」
「ま、お前のおかげで集会が早く終わって、みんな感謝してたぜ」
 あの後、校長は生徒からの罵詈雑言に興が削がれたらしく、最後に不機嫌そうに壇上を降りた。少し哀れな気がせんでもないが、アオイは、校長の長話によって鬱屈していた生徒たちを救った
「というか、本当あの校長話長いよねー、変人だよ変人!」
「その理屈だと、ほぼ全国の校長が変人になってしまうな。まぁ・・・・・・お前の方が変人なんだけど」
「ん? 今なんか言った?」
「・・・・・・いや」
ただ単純に聞こえていないのか、はたまたかまととぶってとぼけているのか。こいつの場合は前者なんだろうが
 もう一度言おう。この女は相当な変人である
 容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、知友兼備・・・・・・などといった四字熟語はすっぽりと当てはまる、というか、この女のために用意されたんじゃないかと本気で思うほどだ
 腰まで伸びた黒髪は、今も煌めきながら虚空を舞っているし、すらりと伸びた腕と足にはしみ一つ無く、キメ細かさを保っている。顔立ちに関してもまだ幼さが残っているが、二重瞼の黒水晶のような大きい瞳を目の前にすると、どんな心も見透かされてしまいそうで・・・・・・彼女を芸能界の絢爛な美女たちと並ばせても、劣らないどころかむしろ勝って美女たちは彼女の前に霞んでしまうだろう・・・・・・スタイルも出るところは、誇張するかのようにしっかりと出ているしな
 間違いなく、街を歩けば百人中百人が振り返る絶世の美少女だ
「ど、どーしたのさ人の顔をまじまじと見て!」
 そんな絶世の美少女なのだが・・・・・・性格に難が有りすぎた。さっきの通りである。さぞかし先生方はこの生徒を扱いにくくしていることであろう
「そっ、そんな見ないでよ・・・・・・も、もうっ!」
 彼女の透き通るような白い頬に朱がさした。自分の魅力に気付いていないというのがこいつの一番おかしいところだ。・・・・・・常日頃からお前の事を見ている奴なぞ、この学校・・・・・・いや、世間にはごまんといるだろうに
 ストーカーのような言い方になってしまったがこれもまた事実である
「なぁ、アオイ・・・・・・覚えてるか?」
「何? あんたが中学の時同級生の小村の机の教科書をエロ本と摩り替えたときの話? 覚えてるよー」
「あ、あれは誤解だ! 全部コノ平がやったんだ!」
 あいつに嵌められて俺はクラスの女子に一ヶ月間無視されたんだ・・・・・・まぁ、最終的には学級裁判で冤罪だということを証明できたけど
「ならどの話よ?」
「俺がまるでそのイメージしかないみたいに・・・・・・いや、あの時の」「天使に助けられた・・・・・・あの夏の日のことだよ」
―――その瞬間 まるで、俺たちの間の世界だけが凍りついたように 他の世界は無くなったかのように
 時間がゆっくりと、スローモーションのように
 俺にとっては数時間のような数秒の、時間が流れて
唐突に
 哀れむようなアオイの視線が俺の両目を貫いたかと思うと
 ようやく動き出した世界と一緒に放たれたアオイの言葉は
「・・・・・・何の話?」
 俺の心を殺すのに、十二分過ぎるものだった
「お、おぼえてないか?・・・・・・ぼら、あの時・・・・・・あいつの婆さんの家に泊まりに行った時の話だ!」
 思わず俺は声を荒げる。周りの生徒たちの視線が、俺たちに突き刺さるのを感じる
「・・・・・・」
「くそっ!」
俺の記憶では、あの時、5人いた
俺、コノ平、アオイ、龍司、中西、みんなの顔が脳裏に描かれる
「・・・・・・なん、で・・・・・・なんで覚えてねぇんだよ!」
 俺だけしか覚えていない天使
 みんなも見たはずなのに、覚えていない
 ・・・・・・ここまでずれてると最早笑えてくる
 まるで、俺の会った天使も、あの夏の日も
 すべて頭の中の幻想だったかのように
「・・・・・・ショウジ」
「いや・・・・・・悪いアオイ、今のは忘れてくれ」
周囲から分け隔てなく放たれる、まるで頭の狂った獰猛な異常者を見るような目
人から淘汰される感覚を身で感じながら、俺はその場を後にした


「・・・・・・はぁ、はぁ」
視界を覆い隠すほどの緑の物体の群を、俺は手でかき分けながら歩を進める。呼吸をする度に肺に注ぎ込まれる青臭い臭いに、ようやく俺はここが草むらなのだと気付いた
「・・・・・・あれ、草むら? おかしーな俺はさっきまで学校に・・・・・・」
 よく見れば、自分の背丈より遥かに高い草むら、てっぺんが見えない何かの木、しわが少ないスベスベとした手のひら
「俺が子供に・・・・・・ああ、これ夢か」
 なんとなーく薄らぼんやりした世界を見てふとそう思う。これが夢だと気付くのは、さほど珍しい経験ではない
「・・・・・・ここどこだ?」
 改めて周囲を見渡すと、そもそもここが木々に囲まれた森の中だということに気付いた
「気のせいかな、ここどこかで」
「もーいーかーい!」
 静寂とした森に木霊する、子供の声
「? 子供がかくれんぼでもして・・・・・・」
「中むーみーっけ!」
 何処の子供が言い放った言葉は、聞き覚えのある名前だった。
「龍二みーっけ!」
「アオイみーっけ!」
次々と発せられる幼馴染たちの愛称。俺は、自分の体が子供なのだということを再確認する
「・・・・・・そうだ、あの時かくれんぼをしてて、次は、確かコノ平が」
「コノ平みーっけ!」
「だーっ! くそう、ここはみつかんねーと思ってたのに!」
遠くはない場所から、少年コノ平の悔しそうな声が聞こえてくる
ああ、思い出してきた
この後最後に俺が見つかるのだ、その時はそう遅くないはずだ
 ただ、この夢の現実と違ったところは、俺の隠れている場所はここではなかった。もう少し、もう少しだけ厄介な場所に隠れていた
 俺はあいつが文字通り、俺のことを草の根分けて探し出すさまを、ほくそ笑みながら隠れて見ていたんだ
・・・・・・そろそろだろうか、あいつが俺を見つける時間は
「ショーウージー! どーこーかーなー!?」「お・・・・・・! お・・・・・・もう・・・・・・だよ!」
 ああ、頭がはっきりしてきたと思ったら、意識の外から誰かの声が聞こえる。そろそろ目覚めるだろうか
 ふと俺は、反射的に木々から漏れ出る日光から目を庇い、思わず手を上げる
 そして、あいつは俺の手を眼の端で捉え、俺を見つけたと思い、あっ! とびっくりして
「あっ!」
タッタッタッ、と小走りになりながらこちらに向かってきて、俺の顔を指差すと、ほんの少し微笑みながらこう言うのだ、見つけたよ! ショウジ と
「見つけたよ! ショウジ」
 ―――あれ、何故だろうか、あいつの顔が真っ白なモザイクがかかったようにパッとしない
―――あいつはこちらに向かってくる。だが、いっこうにモザイクが取れない
「ショ・・・・・・ジ、お・・・・・・だま・・・・・・か・・・・・・に・・・・・・」「お兄! おに・・・・・・!も・・・・・・朝・・・・・・よ!」
―――ああ、とうとう夢の景色が消えてきやがった。あいつの声がだんだん遠のいていく―――
―――あれ、何なんだろう、この違和感、何か、重大な事を忘れてるような―――

―――あれ、何だっけ―――


―――『あいつ』って、誰だっけ―――

無題1

さて、ここはごく一般的な町にあるごく一般的な住宅地だ
比較的新しいこの住宅地は碁盤の様な区分けで成り立ち、一つ一つの家には高さ2・5メートル程の塀がある
昨今の泥棒事情からすればこの高い塀は防犯というより、むしろ盗みに入ったときに外からみられないという大きな利点があるのだが―――それはさておき
今俺は、面倒な状況に瀕していた
「あ!また聞いていませんでしたね~!」
目の前に、頭に光る輪をつけた小学校低学年程とおぼしき少女がいた
「あー…と、聞いてたよ。うん…聞いてた」
「じゃあ今の内容を三行で説明するです!」
なかなか賢しい少女なものだ。俺の生返事に的確かつ厳しいツッコミをいれてきやがる
俺はその少女の期待に応えるべく、頭の脳細胞をフル動員して数分前の出来事を思い出す

俺はとある野暮用の帰りだった。
ケータイの時計で、今が昼だということを再確認し、頭上に広がる無限の青空を眺めて
「今日は晴れやかだな」
等と面白くもない感想を溢していた―――そう、その時だった
空からこいつが降ってきた・・・え、何?空から人が降ってくる分けがないだろうだって?
ああ、たしかに普通ならそう考えるだろう。百歩譲って民家の屋根から落ちてきたんだろうと考えるだろうな
だが、俺は確かに見た。空から少女が降ってくるのをそして上空に千メートル弱から垂直落下してきた少女は
「痛ぁ…」
と呟き周囲を見渡すとおもむろに立ち上がりその場にいた俺を捕まえて
「お兄さんお兄さん!ミスリの翼しりませんか?!」・・・想像してほしい、目の前に上空から落下して無事な少女が、おそらく自分のものであろう翼を知らないか、と聞かれたとき、どうするべきか
頭の上に光る輪をつけた、背中に何か引きちぎったような跡がある少女に聞かれたとき、どうするべきか
手に鉄製と分かる弓矢(何かの体液つきを持った少女に聞かれたとき、どうするべきか
この際質問の内容はどうでもいい
「ギャーーーーーーーーーーーーー!?」
結論・逃げる
「ちょ、ちょっとぉ!?」「ギャーーーーーーーーーーーーー!」
駆ける、駆ける、駆ける、駆ける、駆ける!
アスファルトを蹴り、塀を伝い、道角を曲がり、信号に気付かず、向かってくる車にも気付かず
自分の肺と時間感覚が滅茶苦茶になった頃、俺は走ることを止めた
「さ……さすがに……撒いただろ……」
「もー、ビックリしたじゃないですかー」
・・・戦慄、とはこの状況をさすのだろうか、場を一時の沈黙が支配する
だがこんな状況下において、頬を膨らましてこちらの袖を掴むというミスマッチさが、俺の心を和らげた
「えーと」
「ミスリの翼しりませんか?」
「いや、いやさ」
「ミスリの翼しりませんか?」
「あの」
「ミスリの翼しりませんか?」
「ちょっ、ストップストップ!顔近い!」
言葉にちからが入る少女の顔を遠ざけて、俺は軽く咳払いをして
「あー、ミスリ?君の名前?」
「はい!」
「・・・えー、ミスリ、大変残念なお知らせがある」
「はい?」
「人間には翼なんてないんだ」
「知ってます!」
予想の斜め上の回答だった。
「つ、つまりだなーミスリ。人間に翼がないのなら君にも翼はなくてだなぁ」
「ミスリはあるんですっ!」
見事なまでに会話が噛み合っていない
「ほぉ…?まるで自分が人間じゃないみたいに言うじゃないか」
「そうです!」
ミスリは間髪いれずにそう言うと、すぅ、と呼吸を整えて
「ミスリは天使ですからっ!」
・・・空色の瞳を輝かせて、眩しい笑顔でこう言った

勇者の資格 前編

そこは陰鬱とした空間だった。壁に立てかけられた数十本の深緑色のランプが、幅50mはあろうかという荘厳な廊を照らす。廊は大理石のようなものを基調として作られており、その艶やかな表面が緑色の光でよりいっそう不気味な光沢を増した。
 廊の壁に沿うように並べられた悪魔の石像は、その目に灼熱色の宝玉を湛え、その手に錆び付いた鉄剣を持ち、今にも襲い掛からんとしている。
 そんな石像を畏怖の思いで見つめながら、四人の若者達、勇者一行はぽつり、ぽつりと足を踏み出し、廊を前に進んだ
 そして程なく彼らは廊の果てに来た。前に表れたのは、扉、と言うよりかは門と形容するべきであろうもの、その前に来た。
「いよいよ・・・・・・ですね、勇者様」
 空色のローブを身に纏った女賢者が、勇者と呼ばれる青年に話しかけた。
「魔王を倒すためのこの旅もこれで終わりです!」
彼女は自分の白魚のような手を力強く握り締める。いかにも気力満々、といったところだが、傍らの勇者の表情は少し、どことなく陰りがあるように賢者には思えた
「賢者・・・・・・実は、俺、みんなに言ってなかった事があるんだ」
 勇者が重々しく口を開く。賢者たち三人は何事か、と聞こうとしたが、そこはあえて黙る事にした。勇者は一言言って、パーティーの気合を入れなおすつもりなのだろう、と
「じつは・・・・・・俺・・・・・・」
 場を静寂が支配する。その時の賢者の耳には、誰かが生唾を飲む音が聞こえた気がした。そして、勇者の重い口が
「実は俺・・・・・・勇者じゃないんだ」
 開かれた先にあった言葉は、まさかの死滅呪文だった。賢者の耳には聞こえた、生唾を飲む音、ではない。―――GERM・OVERの、終わりの音が

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

「・・・・・・ど、どういうことですか勇者様・・・・・・?」
『賢者の精神に会心の一撃!』賢者の顔が驚愕に染まる
「・・・・・・厳密に言えば、勇者であって勇者でない、と言う感じだな」
大型の戦斧を背に付けた、大柄な中年男、戦士が横から付け加える
「戦士さんまで・・・・・・?」
「ワシ達は―――」
「・・・・・・いや、いいんだ戦士さん。俺が説明するよ」
 語ろうとする戦士を、勇者が片手で制する。そして、一呼吸分間を置いてから言った
「何を隠そう俺は―――勇者(バイト)なんだ・・・・・・」
―――瞬間、賢者の中で何かが弾け飛んだ、気がした。数ある賢者の頭の中の疑問の中から、とある疑問が、彼女の脳の三半規管から喉下へ伝わった
「時給いくらですか?」
「2800円」
「・・・・・・高いんですか?安いんですか?」
「それは俺もよくわからん・・・・・・クッ!すまない!」
「ってゆーか、勇者様が勇者様じゃないんなら誰が魔王を倒すんですか!」
「まぁ聞け、賢者よ」
見かねた戦士が、またもや会話に横槍を入れる
「この勇者(バイト)はたしかに勇者ではない。だが、そんな勇者に付いてきた俺たちが今たっているところはどこだ?」
「・・・・・・!」
賢者は反射的に周囲を見渡す。そして同時にこう思う。―――魔王城だ、と
「確かに、実際の勇者よりかは劣るのかもしれん、だが、現に俺たちはここまで来れた・・・・・・と言う事は、この男は厳しく見ても必要最低限の『勇者』という技能を満たしているのではないか?」
「・・・・・・」
「ちょっといいかしら?」
声の主以外の全員が、その発生源へと顔を向ける。―――今まで後方でこの事態を見守っていた、女魔導師だった。
「今戦士が・・・・・・『勇者』という技能を満たしている、と言ったけれど・・・・・・果たしてそうかしら?」
「どういうことですか?女魔導師さん」
「戦士の言う理屈だと、『勇者』という技能はパーティーを導く事になってしまうわ。でも、それは違う。・・・・・・考えて、こうね」
女魔導師が空中に指で円を描いた。瞬間、何もないはずの虚空から、ホワイトボードとマーカーペンが表れた。そのボードに、女魔導師はすらすらと何かを書いていく。
 
 1・勇者とは、弱きを助ける者のこと

 2・勇者とは、勇気があり強いもののこと

 3・勇者とは、世界を正解へ導くものの事

 「こういった意味では、この勇者様(バイト)は条件をそこそこ満たしているのかもしれない。でもね、条件の2を見て、思い出してみてちょうだい・・・・・・勇者の、今までの戦闘を」
 
   三ヶ月前

デデデッデデッデデデデデッババーババーババー!
[どろにんぎょうが あらわれた!]
[けんじゃは どうする?]       
(たたかう  ぼうぎょ  じゅもん  どうぐ  にげる)   
                ↑  
[けんじゃは スカラをとなえた!]
カキーン! [ゆうしゃの おもにかはんしんの いちぶぶんが かたくなった!]
[ゆうしゃは どうする?]
(たたかう  ぼうぎょ  じゅもん  どうぐ  にげる)
                      ↑
[ゆうしゃは HONOOの つめを つかった!] 
ババーン! [どろにんぎょうは しんだ!] 


「『炎の爪』しか・・・・・・使っていない・・・・・・?」
「分かったようね。つまるところ今まで並み居るボスたちを倒してこれた功績は・・・・・・私たちにあるのよ」
「ち、ちょっとまってくれ」
 議論があちら側に傾き始めた、と思ったのだろうか、戦士は緊張した声で話す
「確かに勇者には実力がない。だが、ここまで来れたことは何も、実力に限った事ではないだろう!?」
「・・・・・・あなたの言いたい事は分かるわ。具体的な意味でね、つまり・・・・・・」
「『神の加護』」
 聖職者たる所以だろうか、パーティーの中でそれを口に出したのは賢者だった
「・・・・・・そうだ。そもそもここまで来れたこと自体が、それこそ『神の加護』。つまり、このパーティーの中にその加護を先天的に受けた『勇者』でもいない限り・・・・・・断言しよう。ここまで来る事は不可能だ!」
 次々とまくし立てられる一つの根拠に、女魔導師は沈黙した。
「でっ、ですが勇者様(バイト)に力が無いのなら、どうやって魔王を倒すんですか?」
おどおどしく疑問を投げかける賢者に対し、戦士はやれやれ、といった眼差しで賢者を見る。
「・・・・・・簡単に言えば、神の加護ってのは主人公パワーなんだよ。勇者ならどんな難題でも楽々解決ってわけだ。過程はともあれな」
「・・・・・・勝手に議論を纏めないでくれるかしら?実は一つだけ勇者(バイト)が、『勇者』かどうか確かめる方法があるわ・・・・・・これよ」
そう言った女魔導師が、空中から白金に輝いた鞘に収まれた、剣を取り出した。その剣を見た戦士が驚きの声を上げる
「そ、れはまさか・・・・・・!」
「察しが良いわね。そのとおり、この剣の名は・・・・・・『勇者の剣』よ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「女魔導師、貴様・・・・・・! 先刻から様子がおかしいとは思っていたが・・・・・・!」
 戦士が背の斧に手を掛ける。その矛の先は―――紛れもない仲間―――であるはずの、女魔導師に向けて
「フフッ、そこまで分かるのぉ? ・・・・・・賢者よりよっぽど『賢者』してるじゃない」
「いいや、ワシは賢者なんかじゃあない。・・・・・・おかしいとは思うべきだった! 一年前のあの日から・・・・・・!」
 
                                              続く

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